障がいがある人ない人、パフォーマーと観客が、一緒になって表現を楽しむ「スター発掘プロジェクト in 佐賀」
8回目の開催を前に、監修と司会を務める小松原修さん、主催のSANC大石哲也さんのお二人に、同イベントの魅力について、お話をお聞きしました。
もっといきいきとした表現や作品が生まれてくるために
ーー「スター発掘プロジェクト」が、どんなイベントなのかを簡単に教えてください。
小松原:
障がいのある人に限らずに、舞台で表現したい人や、その機会に恵まれない人がやりたいことをやっていい、自由にステージ上で演じてもらう、表現してもらうイベントです。
僕がこの世界に出会ったのは2000年ぐらいで、当時、障がいのある人たちの表現活動って、どちらかというと絵とか陶芸みたいな、「作品」的なものが注目されていて、身体表現活動はそこまでポピュラーではなくて。
そこで、僕自身が演劇をやっていたこともあって、障がいのある人たちと身体を使った表現活動を、佐賀県の中で行なっていました。
ところが、「障がいのある人たちの」と言いながら、佐賀県の中での取り組みは、僕がやっているものだけになっていて、自分の身の回りだけでしか出来ていなかった。
なんとか広げたいと思っていたところに、SANCとの出会いがあって、「スター発掘プロジェクト」や「身体表現ワークショップ」「なんでもステージ」などの形で、場を増やすことを、一緒にやってきました。
SANC大石:
美術系には誰でも出展ができる「佐賀県障がい者文化芸術作品展」(主催:佐賀県)があるので、発表の機会が確保されているのですが、身体表現の方では参加しやすい場がまだまだ少ないのが現状です。
障がいのある人のアートというと、美術系の方がイメージされやすいと思いますが、みんなが絵を描くのが好きな訳ではなくて、歌・ダンス・演奏などが好きな人もいますので、そういう人が集まって発表できる場を作ることは大事なことかなと思っています。
小松原:
(障がいのある人たちの身体表現活動を)なんのためにやるのかを考えると、コミュニケーションの上達とか、スキルアップを目的にすることが多くなる。それだけじゃなくて、人に見てもらって、楽しんでもらってなんぼっていう、その視点があると、もっといきいきとした表現や作品が生まれてくるんじゃないかと。
そこで、発表の場を用意して、ステージに立ってもらう形にしたらどうかなって、そこから始まったのが、この「スター発掘プロジェクト」です。
SANC大石:
スター発掘プロジェクトのヒントになった取り組み「スタ☆タン!!」にも触れます?
小松原:
「スタ☆タン!!」は外せないですね。
静岡県のNPO法人クリエイティブサポートレッツが「雑多な音楽祭~スタ☆タン!!~」っていうイベントをやっていて。
これって音楽なの?っていうものまで、音楽ですって言い切って、舞台上で奏でるイベントです。
私が一番面白かったのは、トラック野郎の運ちゃんが、長距離トラックをやってる時に、鼻歌を歌いますよね、それをライブ中継して、これも音楽ですって。
日常に音楽がある、そんな閃きが非常に面白くて、親和性を感じたんです。
ーー現在に至るまでの紆余曲折があったのですね
それぞれのお立場で、苦労された点などについてお聞かせ願えますか
小松原:
最初の1、2年ぐらいは、こちらの思いが伝わりにくいのか、出演者の広がりが少なくて。
上手いパフォーマンスとか、ずっと活動されているような人たちが出てくれる、それもいいんだけど、もっとここら辺にいませんかみたいな。
こんな人が出てくれるんだっていう広がりが出てきたのは、去年一昨年ぐらいですかね。
一昨年、伊万里で出張ワークショップをした際の参加者の方が、スター発掘のチラシを見て、「これに出る、出たい」と言ってくれて
。
SANC大石:
ご本人が「出たい」と、ご家族に伝えたんですけど、その頃あんまり調子が良くなかったらしいんですね。
ご家族は心配されて、出ない方がって止めたんだけど、それでも「出たい」って言われて「じゃあ心配だけど行ってみようか」ってことで参加してくださんですが、ステージ上ではとても良い笑顔で、堂々とパフォーマンスされていました。
小松原:
全てにドラマがあって、すごく良かったですよね。ああいう方は、2017年、2018年とかにはまずエントリーされなかった。
待機している彼は今どんな気持ちなんだろうかとか、終わった後、家帰った時に何言ったのかなとか、そういう面だけ見てもすごく面白いなって。
大石:スター発掘のような場があることが、ご本人の気持ちを動かして、さらに周りの方の気持ちも動かすことがあるということを、運営する私たちが教えていただいたように感じて、表現できる場があることの大切さを再確認しました。
ーー手応えとしては、だんだんと企画の意図が伝わってきたという感じでしょうか
小松原:
伝わってきていると思いますね。
こうして今、いろんな方がいろんなパフォーマンスをしてくださっているので、いい形で進んでいると思います。
スター発掘プロジェクトは、出た人たちの表現を見て、さらに深めていけるという良さがあって、すごくポテンシャルがあるんですよ。
SANC大石:
パフォーマーと周りの方の日常の取り組みなど、ステージ以外のエピソードをもっと発信したいと思いながら、まだ全然できていないので、そこは課題に感じています。
小松原:
大変なんだけど、大事なところですよね。
例えば、その人の日常をヘルプしている事業所がやってくれて、ジョイントできれば最高だろうなと。
人間愛というか、利用者のすごく細かいところまで見てるんだなとか、それが合わさってブランド化されていくのは、本人にとっても家族にとっても冥利に尽きるだろうなと、すごく思ってますね。
人の魅力ってどこにでも転がってる
ーー司会やMCの立場としてはいかがでしょうか
小松原:
(パフォーマンスに対する)拾い方が難しくて、少し間違えると「イジり」に成りかねないというか。
そのラインって微妙だなっていうのを感じて、スター発掘のMCでも意識しています。
やりたかったのは、ここが良かったですねとか、こういう魅力がありましたねとか、代弁者になることなので、魅力の質を、どう言葉にしていくのかは本当にこだわってきましたね。
SANC大石:
コメンテーターの方に参加してもらうようになったのも、その流れですよね。
小松原:
そうですね、絵画を鑑賞する時もそうですけど、「見方」というのがある。
例えば、一本引いた線に、なんでこれを描いたんだろう?って、そういう見方を日常的にしていくことが、障がいのある人たちが魅力的に生きていくために必要な、サポートのありかたであるように思います。
コメンテーターの方が入ると、その方なりの見方や言葉が加わるので、入って頂いて良かったなと思いましたね。
例えば、「スタ☆タン!!」で、自閉症の方が、10分間じーっと立っているっていうステージがあって。
100人ぐらいが見てるんですけど、10分間何にも起こんない、でも終わった時に、みんな拍手しだして、なんなのこれ?って。
でも、「スタ☆タン!!」のコメンテーターの方たちから、独特の視点でのコメントがあって、ああ、こういう見方もできるのかもって。
そういう事が日常にいっぱいあるんだけど、これは見せていい、これは見せちゃいけないという区切りを、人それぞれがつけちゃっている。
人の魅力って、どこにでも転がってて、それを共有できるどうかは、場の作り方次第じゃないかなって思ったんです。
見る側の驚きとか衝撃とかがあっても、それを消化するための言葉が入ることで、マイルドになるんじゃないかと思っています。
SANC大石:
そんなやりとりや見方が日常にも広がっていくといいよね、という話をしていましたね。
小松原:
絵画などのビジュアル表現と比べると、パフォーマンスっていうのはわかりにくい部分がありますよね。
でも分かりにくいからダメじゃなくて、そこを感じてみようとすると、分かりにくい人たちの色んな生活場面が、これって面白いかもしれない、となるんじゃないかという思いがあって。
ステージ上の見方が日常に、障がいのある人たちだけじゃなく、違うジャンルの人たちにも広がっていければ、飛躍するかもしれないですけど、生きやすくなるのかなと思います。
失敗や間違いは人を幸せにする
下手なものを堂々とやるとか、くだらないことを真剣にやるとか、そういう人たちって魅力的に映るじゃないですか。
そんな魅力的な方達を増やしていきたいし、何より、人前でやって欲しいんですよね。
ーー見る方がいるからこそ成り立つ関係性ということですね
小松原:
そうそう、そうすると、障がい者イコールこうではなく、みんなこういう面があるよね、だけどかっこいい面もあるじゃない、ということが共有できる。
そうなると、出来上がったものに対しての評価ではなく、その人なりが作品になって、障がい者のイメージも変わってくるんじゃないかって。
身体表現活動って、人そのものが出ちゃうので、いいところも、どうかなっていうところも、全部がひっくるめて作品になる。
それが愛されるかどうか。愛されるための条件って、やっぱり魅力ですよね。
そのままで魅力がないとは決して言わないんですけど、魅力の違う側面を提案することが、スター発掘の一つの醍醐味かなと思ってますね。
スター発掘プロジェクトって、すごく安全な場だと思っているんです。
「失敗とか間違いは人を幸せにする」っていう、僕の中の合言葉みたいなのがあって、間違えたほうが場が和むというか。
障がいのある人も含めて、間違えたり失敗したら、やり直せばいいじゃんと。
それ自体が面白いから。狙っちゃダメだけど(笑)
失敗を気にせずに、堂々とやる生き方をしていこうという、そんな想いが企画の根本にあるような気がします。
ユーモアのある見方があれば、自分も生きやすいし救われる
ーーこの企画が社会に与える影響や意義については、どのように考えていますか
小松原:
障がいのある人は、一面的に捉えられることが多い、と思っていて。
弱いとかできないとか、そういうものを隠してる感じがしたんですよね。
でも、できないとか、弱いとか、よく失敗するんだとかいうもの自体をブランドにしたほうがいいと僕は思っていて。
この考え方が広がってくると、人の見方や許容範囲も広がってきて、今まで一面的に障がい者って呼ばれた人の違う面に気づけるかなと。
よく「支援」とか「配慮」とか言われるんだけど、支援がなくても困らなければその人なりじゃない、っていう見方や場面があれば、救われるかなって思いますね。
ユーモアのある見方があって、それが生かされる社会になってくれていると、自分も生きやすい、そんな社会になってほしいです。
ーー最後に、どういった方に参加してほしいですか?
合わせて、参加を迷われている方へのメッセージをいただけますか?
小松原:
日々すごく魅力的なことをやってるんだけど、人に知られていない、もっといろんな人に知ってもらったら、多面的に見てもらえるかもしれないという、そんな人に出てきてほしいと思います
。
SANC大石:
演奏とかダンスとか、既存の表現のジャンルに当てめるのが難しい表現だと、これで大丈夫かな?と心配に思う方もいらっしゃるんじゃないかなと思いますが、心配せずに参加してもらえると嬉しいです。
先日も「歌が好きなんだけど、その時の気分によって歌えないことがあって。そこが心配です」と、ご相談があったんです。
「仮にステージで歌えなかったとしても、小松原さんが何とかしてくれますから」とお伝えしたら、無事お申し込みをいただきました(笑)
小松原:
しますします、ほんとに(笑)
気分でやるかどうか分からないって一番見たいですよね(笑)
SANC大石:
そういう方でも、安心して参加してもらいたいなと思っています。
仮に思っていたものが出せなかったとしても、それも全然大丈夫です。
小松原:
やるとこじゃなく、出るってことに意味があるという、そこが伝われば良いなと思いますね。
第8回 スター発掘プロジェクトin佐賀
出演者の募集は定員に達しました。
観覧希望の方は自由に会場にお越しください。予約不要です。
【日時】令和7年2月2日(日) 13:00〜16:00(入場受付:12:30〜)
【会場】佐賀県立美術館ホール(佐賀市城内1-15-23)
【料金】出演・観覧どちらも無料
【司会・監修】小松原 修(ドラマディレクター/佐賀大学)
【補助】佐賀県(令和6年度 佐賀県障害者芸術文化活動普及支援事業)
【主催】佐賀県障がい者芸術文化活動支援センター SANC/社会福祉法人はる
【詳細】スター発掘プロジェクト イベント詳細ページ をご覧ください。
インタビュー/構成/撮影:大曲耕平(こだまデザイン)