「路 michi/カン・イルグ 加茂 賢一 二人展」
カン・イルグさんと加茂賢一さん、それぞれの個性が共鳴する、心地よい展示空間でした。
シンプルでのびやかなカンさんの作品を見ていると、心がふっとゆるんで楽になります。とはいえ脱力系のイラストと大きく違うのは、技量はもちろんですが、生きることの本質を突いている点でしょう。作品を見て、タイトルを確認すると、作家の真意をあれこれ想像してしまいます。
この作品のタイトルは「私」。一人を描いているようで二人を描いているような、不思議な作品です。「私」を「私」が抱きしめているのか、「私」を抱きしめてくれる大切な誰かも「私」の一部なのか。さまざまな解釈ができそうです。
黄色が鮮やかな作品は「換気」。空気が悪い場所はどこでしょう、家庭、ビルの中、それとも社会? 風刺を含んでいるかと思われる作品も、決して嫌味っぽくなく、ひょうひょうとしているのが魅力です。
カンさんの世界観は広大で深遠、そしてとても温かいのだと思います。
加茂さんの作品は点描の動物画や風景画も印象的でしたが、別の技法の作品が存在感を放っていました。
鶏の生き生きした姿(写真右)もすてきですが、今回初めてお披露目されたのは夏の風物詩を描いた作品(写真左)です。この率直さと明るさ。夏の虫、鳥、花、野菜。やたら暑い近年の夏にはネガティブイメージもありますが、この絵を見たら「夏、いいな」「夏には楽しみがたくさんあるな」と素直に思えます。加茂さんが野菜を描いているのを初めて見た気がしました。描かれた夏野菜、とてもみずみずしい。
長崎で見たという仏像の絵は、5年ほど前に描いたもの。展示の準備期間中に発見した作品だそうです。仏様の大きな体と、小さな子どもたち。子どもたちは仏様にすがっているようにも見えるし、大きな体を登って遊んでいるようにも見える。明るい色づかいですが静かな祈りを感じさせる作品です。
点や線を無数に連ねて重ねる技法も引き続き追求しつつ、「違う技法も挑戦していきたい」という加茂さん。これからますます多彩な作品が生み出されていくことでしょう。
「路michi カン イルグ 加茂 賢一 二人展」は12月17日(日)までです。平日と土日で時間帯が違うのでご注意ください。二人の個性の違いもおもしろいし、同じ作家でも作品によって異なる表情が見えるので、見ごたえがありますよ!
作風こそ違うものの、とても仲の良いカンさん(写真左)と加茂さん(写真右)。
出会いのきっかけは、加茂さんの絵にひかれたカンさんが個展会場の前で足を止めたことでした。「おもしろい絵だったから、『見たい』『会いたい』とすぐに思った。運命を感じた」と言います。その後、顔を合わせる機会が増え、2022年には佐賀市川副町の「えんにち」「のり・と」で二人展を開催するほど親しくなりました。
カンさんの考える加茂さんの作品の魅力は、「明るさ」と「いたずらっ子っぽさ」だそうです。描きたいものを描いているのが伝わってくること。目の表現が生き生きしていること。体のわりに小さく描かれた手足がかわいらしいことを挙げながら、「加茂さんの絵の秘密は目と手足にある」とカンさんは言い切ります。
それに対して加茂さんは「描いている最中そういうことは意識しない。何も考えない。集中して描くだけ」とのこと。カンさんは「曼荼羅を描く人みたい」と感心していました。
廊下と和室2間を使っての展示。カンさんの妻で、川副町でアートスペースを運営する浦川広子さんは「廊下は人の往来をイメージして展示し、カン作品を展示する和室は『自身で癒す力』『再生』がテーマです。そして加茂作品の和室は『楽園』。明るい色彩からいろんなことを感じとっていただけたら」と言います。
二人展のタイトル「路michi」は、「カンさんも、加茂さんも、みんな動いている。動きながら路(みち)でつながっている。これからの路を2人の絵でつなぎたい」との思いを込めたそうです。
路がどのようにつながり、どのように伸びていくのか、楽しみに見守っていきたいですね。