今年も「佐賀県障がい者文化芸術作品展」(主催:佐賀県)の作品募集が始まりました(2023年10月31日まで)。佐賀県立美術館における12月の展示を待ち遠しく感じるかたもいらっしゃることでしょう。
作品展の前身は「趣味の作品展」という名称で、小ぢんまりと行われていたそうです。その歴史は、障がいをお持ちの方々のあゆみやアートの潮流とも重なっています。
2023年7月上旬、「佐賀県障がい者文化芸術作品展」の開催を支える方々にお集まりいただき、作品展のあゆみをふり返っていただきました。記事を通じて作品展に興味を持っていただけたら幸いです。
「出品してみようかな」「どんな作品を出すといいの?」と迷っているかたに向けたメッセージもたくさんつまっていますよ!
今年度の作品募集要項はこちら (出品申込・作品搬入・展示期間などのスケジュールも確認できます。)
話し手のご紹介
- 山田 直行さん
「佐賀県障がい者文化芸術作品展」絵画部門 審査員/佐賀美術協会理事、佐賀女子短期大学名誉教授・元学長 - 平川幸雄さん
一般社団法人佐賀県身体障害者団体連合会・佐賀県障害者社会参加推進センター会長
*佐賀県障害者社会参加推進センターは長年、作品展の運営を担ってきました。 - 吉田 葉子さん
一般社団法人佐賀県身体障害者団体連合会・佐賀県障害者社会参加推進センタースタッフ - 中島 栄二さん
佐賀県障害者社会参加推進センター元スタッフ。中島さんは「佐賀県障がい者文化芸術作品展」の前身にあたる「趣味の作品展」から携わっていらっしゃいました。 - 緒方 あいさん
佐賀県 文化・観光局 文化課主事
「福祉」の枠を超えて「アート」へ
平川:今日は「佐賀県障がい者文化芸術作品展」の長い歴史を知るかたとして、中島さんにおいでいただきました。
中島:もともとは「趣味の作品展」として小ぢんまり開催されていました。会場は佐賀県身体障害者団体連合会(以下、『県身連』)の事務所前の集会室で、作品数は100点前後でした。私は平成5(1993)年から作品展に携わっています。
吉田:「趣味の作品展」は平成12(2000)年度まで27回開催され、出品者のご家族や学校の関係者が観覧されていたそうですね。
中島:1970年に制定された「障害者基本法」で12月9日が「障害者の日」と定められていた(※1)ため、毎年12月に開催されていました。
平川:12月開催は今と同じですね。今のように外部の専門家に設営を依頼していたのですか?
中島:すべての作業を県身連で行いました。スタッフ総出で夜遅くまで作業にあたっていました。作品がある程度集まってから作業を開始するのですが、素人だから「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤の展示作業。「趣味の作品展」といっても審査は行われていて、山田先生に絵画と写真の審査をお願いしていましたね。
平川:私たちより山田先生のほうが古い(笑)。
山田:今は佐賀県写真協会が写真の審査を担当しています。かつては指導者のいる施設や学校からの出品が中心でしたね。
吉田:県身連事務所の廊下の壁面には、寄贈いただいた知事賞受賞作品7点が展示されています。平成13(2001)年度に「第1回佐賀県障害者作品展」が佐賀市立図書館で開催され、翌年度からはイオンモール佐賀大和のイオンホールで開催されました。
ーー 鑑賞者の変化は見られましたか。
山田:鑑賞者は目に見えて増えましたね。「買い物がてら見て行こうか」という人もたくさんおられたようです。副賞も準備されるようになり、出品者の意欲向上にもつながりました。
吉田:会場が佐賀県立美術館または佐賀県立博物館での開催となり、出品者のモチベーションアップにもつながっていったのではないでしょうか。ご家族と一緒に来場されて「作品が美術館に展示されることがすごくうれしい」と喜んでおられる姿が見られます。
山田:鑑賞される層も広がり、作品展そのもののファンが増えています。
吉田:「毎年、この作品展を楽しみにしています」という声を聞くとうれしいですね。中には、1時間ほどかけてじっくり鑑賞されるかたもおられます。展示の工夫も作品展の魅力に貢献しているようです。
ーー やはり長年継続されてきた成果ですね。
緒方:佐賀県障害者社会参加推進センターは作品展の開催を全面的に担ってこられました。平成28(2016)年度からは佐賀県庁が役割を分担し、設営は外部の専門家に委託するようになりました。県庁の担当課が障害福祉課から文化課になり、展覧会名が「佐賀県障害者作品展」から「佐賀県障がい者文化芸術作品展」に変更されたのもこの時です。
山田:「福祉」の枠に収まらず「文化芸術」「アート」として社会に定着しました。
※1 平成16(2004)年に障害者基本法改定が改正され、12月3日から12月9日までの1週間が「障害者週間」と定められました。
その人しか生み出せない作品の魅力。個性の時代の到来
山田:衝撃が大きかったのは加茂賢一さん(※2)の作品です。「いい傾向の作品が出てきたな」と思いました。独自の表現手法が評価された背景には、「アート」と認められる領域が広くなったという全国的な潮流があります。例えば、草間彌生さんの水玉模様がアートと認められたのと同じような流れです。
平川:加茂さんは風景画、動物画、人物画、どれも迫力がありますね。
山田:加茂さんの作品はタイトルから圧倒的。出品作品ではないけれど、唐津城を描いて『海や、強い潮風、木々が運んでくれる幸せな気持ち唐津城』と加茂さんはタイトルをつける。心の中が見えてくるようなタイトルがアートとしての深さにつながっています。
吉田:加茂さんは個展を積極的に開催しておられますね。
平川:第22回作品展のチラシに採用されたもろおかそう太※2さんの作品『こわいけどさわりたいもの』はたくさんの動物を立体で表現していました。一体ずつ顔が違うし、工芸というジャンルを飛び越えて、見る者に訴えかけてくるものがある。
吉田:もろおかさんの作品は会場でも好評で、「販売されていないんですか」と尋ねられました。
山田:かつては「上手な絵」「写実的な絵」が評価されていたけれど、そこに重点を置かない作品が増えています。
ーー その傾向はいつ頃から見られるようになったのでしょう。
山田:全国的な傾向としてはここ10年で「アート」の領域は大きく広がっています。草間彌生さんの作品がグローバルに認められたのと無関係ではないと思います。
平川:特にここ5、6年はその傾向が強まっています。「上手さ」「きれいさ」を求めるより、自分の主張を押し出す作品が評価されている。受賞作は「私が表現したいものを出すから、見て」というアピール性の強い作品です。「その人ならでは」の表現された作品を「手づくり感のあるもの」と私は呼んでいるのですが、迫力が違います。
山田:昨年、絵画部門で金賞を受賞した宮地善次さんの『花植え』は絵画から伝わる温かさ、豊かさに魅力があります。農作業の後の団らんの風景ですね。描かれたご本人の価値観が伝わってきます。
吉田:毎年注目を集めるのは、つくる側の「根気」を感じさせる作品ですね。
山田:根気に脱帽することはよくあります。例えば、同じ形が延々と描かれている作品に「なぜこんなに連続させる必要があるのだろう」と思いつつ「でも、美しいね」と評価せざるをえない。審査の過程でそんな経験が何度もありました。審査するこちらが学ぶことが多く、「いいな」と思う作品からは、障がいがある・なしの差はアートにはないということを実感します。
平川:「佐賀県障がい者文化芸術作品展」という展覧会名ではありますが、障がい福祉以上に「文化芸術」ですよね。
「意図しない意図」「たくらみのないたくらみ」
山田:「意図しない意図」「たくらみのないたくらみ」のおもしろさを感じられるのも、この作品展における審査の醍醐味です。「無の境地」に通じる作品が多いのです。自分自身がその境地で創作できているか省みると、あまりできていない。「作品らしく仕上げよう」という煩悩が反映されているように感じます。「僕が描いているのは『作品』だらけじゃないか」と反省させられますね。
平川:おもしろい作品が本当に増えました。作品名を検索すればすぐに作家名が表示される。そんな作家がこれから誕生することも期待されます。
山田:「ギフテッド」という言葉がありますが、技術や人柄・嗜好など、それぞれ与えられた特性・特徴があって、それこそギフテッドだと僕は思います。「その人しか生み出せない作品」との出会いを、審査の際はいつも楽しみにしています。
平川:個性の時代と呼応するように、個人で出品する人が増えています。今年度も楽しみです。
※2 加茂賢一さんは2018年度(第18回)作品展において『旧古河庭園 東京』で知事賞を、2019年度(第19回)作品展において『隔たりのない時空タイの大理石寺院』でイオン佐賀大和店賞を受賞されました。
これからの作品展。それぞれの楽しみ方を大切に。
緒方:第23回にあたる今年度の作品展のチラシは、大川内健太さんの絵を採用しました。会場では、大川内さんの作品コーナーを設けます。
吉田:なかなか思いつかないような大胆な色づかいですね。
平川:色や形の組み合わせが現代的だし、インパクトがすごい。
吉田:作品展は毎年、多くの方に出展していただいていますが、課題もあります。近年は「パソコンやスマホで制作した作品は出品できないんですか」という問い合わせが増えてきました。
緒方:デジタルアートは今のところ審査の対象外なのですが、その取り扱いは今後の課題です。デジタルアートという別部門での受付となる可能性もあります。映像作品の場合は、広いスペースが必要というハードルがあります。
山田:アートの領域は広がり続けているから、どこまで作品と認めるかは本当に難しいところです。
平川:文化芸術作品展の話題から少しはみ出しますが、魅力的な作品を生み出せる人は、作品の商品化につながるなど新しい展開が見られるので、そういう動きにも期待しています。
緒方:文化課としては、レベルの高い作品を求めるというよりは、「ご自身が誇りを感じる作品はぜひ出品してください」とお伝えしたいです。すべての人が受賞を目的とする必要はないので、それぞれの楽しみを持って出品していただけたらうれしいです。
ーー 作品展への出品をきっかけにご本人の世界が広がったら素晴らしいですね。本日はありがとうございました。