インパクトを与える作品の数々と、他に類例のない展示方法で、開催のたびに話題を呼んできた「関係するアート展」。現在、vol.4「心が震えるほど面白いと感じたことはありますか」が佐賀県立博物館3号展示室で開催されています。
この度、これまで4回にわたる展覧会を、主催者サイドに振り返っていただく場をもうけました。企画を担ってきた障害福祉サービス事業所PICFA施設長の原田啓之さん、vol.2から開催を支えてきた佐賀県文化課の緒方あいさんに、印象深い作品や展示について語っていただきます。

「愛おしい」からつながった、思いもよらぬ関係性

原田:展示作品について語ることは、実は今まで避けていました。「まずは作品そのものと向き合ってほしい」という気持ちがあるからです。
僕が説明したくない事柄は、作家の受賞歴や「〇〇美術館に作品が収蔵されている」という種類の情報です。「受賞歴のある人だからこの作品は素晴らしいはずだ」という具合に鑑賞してほしくないので、「関係するアート展」では、その手の情報を一切出していません。先入観なしに作品を見て、「好き」とか「嫌い」とか感じてほしいと願っています。だから、今回も受賞歴などの話題ではなく、アートそのものに集中してお話しします。

緒方:令和4年度のvol.2に出展いただいた、奈良県の「たんぽぽの家」の伊藤樹里さんの作品は印象的でした。絵画や立体作品の展示を期待していた方々の予想に反するものだったと思います。そこで展示されたのは、樹里さんが集めておられる薬の殻を大量に詰めたアクリルボックスです。作家の生きざまそのものの展示でした。薬はのんだ分、体調が良くなりますよね。その薬の殻を集める行為には「みんなが元気になりますように」という作家の願いが込められています。vol.2のテーマ「愛おしい」にも合致しています。

伊藤樹里さんの作品

原田:「私も関係したい」と願ってのことだと思いますが、作品の中に薬の殻を入れる方も現れました。「たんぽぽの家」の施設スタッフに伝えると笑ってくださって「そんな素敵なことが起こったんですか」と。樹里さんに伝えていただき、特に問題にはなりませんでした。こういう、温かい心から出た行為にどう対処するか、主催者側として頭をひねりました。「薬の殻を入れないでください」という看板は作りたくなかったので、展示室の受付に新たにアクリルボックスを設置し、「作家に届けるので、薬の殻をお持ちいただいた方はこちらに入れてください」と表記しました。その結果、かなりの数が集まりました。「たんぽぽの家」に報告したところ、すごく驚いて喜んでくれました。「関係するアート展」で、予想外の「関係」が生まれました。

井村ももかさんの作品

同じくvol.2の展示で、滋賀県の「やまなみ工房」の井村ももかさんのボタンと布を使った作品でもエピソードが生まれました。井村さんは布にボタンをぎゅうぎゅう縫い付けていくのですが、作り進めるほどにボタンと布のミルフィーユとでもいうような、ずしっと重いかたまりになっていきます。この作品を観て「ボタン余ってるよ」と声をかけてくださる方が現れたので、ボタンを集めるアクリルボックスも設置してみました。井村さんはボタンと布の色をリンクさせて作品を作るのですが、緑など手に入らなかった色味があれば、ボタンを油性ペンで塗っているんです。その話を聞いた方が「それならいろんな色のボタンを持って来るね」とおっしゃって。そういうつながり、すなわち「関係性」ができたのがうれしかったですね。

緒方:vo.2ではナイトミュージアムも実施し、そのときの入館料としてボタンか薬の殻のご提供をお願いしていました。ナイトミュージアム終了後もお持ちくださった方がおられたので、アクリルボックスの常時設置という流れになりました。

「衝動」――思いをぶつける。その行為を、作品を通じて体感してほしい

緒方:vol.3では「やまなみ工房」の鎌江一美さんの立体作品が印象に残っています。粘土の小さな粒を一個一個つなげて、施設長の山下完和(まさと)さんの像を作っておられます。山下さんのことが大好きで、「オーストラリアに行く私とまさとさん」「夢に出てくるまさとさん」など、ずっと作り続けておられるそうです。vol.3の「衝動」というテーマにふさわしい作品でした。好きという気持ちのままにこれだけの量の粒を付け続けるのだ、という驚きを鑑賞される皆様に伝えたいと感じました。自由な発想のもと、深い思いをありのままに表現されている作品が「関係するアート展」には多いですが、特に心を動かされた作品です。

鎌江一美さんの作品

原田:僕は作品そのものももちろん好きなのですが、それ以上に作る行為に向かう姿勢に興味を感じます。だから、作品を集める際はできるだけ作家に会いますし、故人の場合は動画を見るなどしています。vol.2で作品を展示した、大阪府の「アトリエコーナス」の大川誠さんは作る姿勢に強くひかれた作家の一人です。羊毛フェルトでオリジナル人形Makoot(マクート)を制作されていました。2016年に他界され、お会いしたことはないのですが、生前のご様子を撮影した動画を拝見しました。羊毛フェルトは一般的には優しく刺し続けるんですけど、机の板が抜けるぐらいに、がーん、がーんと刺すのが大川さんのスタイルでした。大川さんは制作途中で興奮して自分の目を殴ったり頭を叩いたりすることもありました。かわいい人形からは想像しにくいと思います。また、「障がい者は黙々と制作する」という世間に広がっているイメージにも当てはまりません。僕は動画で拝見しただけですが、大川さんの制作する姿に心ひかれたんです。そして、その姿を作品展示に反映させたいと思いました。

大川誠さんの作品

大川さんの作品はいろんな場所で既に拝見していましたが、壁に固定する展示がほとんどで、それだと人形の正面はわかるけど背面はわからないんです。「Makootの背面が観たいな」と思っていました。同じように感じている人はいるはずですし、大川さんの制作風景を展示に反映させたいと考えました。そこで選んだのが吊るす展示です。天井からテグスを引っ張って人形に固定し、四面から影ができるようにライトを設置しました。空調でMakootが揺れると、影も揺れます。アトリエコーナスの方に話したら、「大川さんが動いているみたいだ」と喜んでくださいました。ちなみに、このvol.3以来、Makootの展示はほぼ宙吊りでの展示も増えたらしいです。

緒方:作る過程が興味深いといえば、vol.2で「いきる我楽多」シリーズを出展いただいた、「やまなみ工房」の吉田楓馬さんも印象的です。

原田:吉田さんは「やまなみ工房」の敷地内にあるアトリエで立体作品を作っており、その中は材料となるガラクタで埋まっています。その多くはご自身が着なくなった服や使用しなくなった物です。子供の頃にいじめを受けて「自分なんてガラクタだ」という気持ちからガラクタを使って作品に「活かし(いかし)」、作品として「生きる(いきる)」、また自分を悲観する者へ「熱る(いきる)」意味などを込めて立体作品を生み出すようになったと聞きました。それを今、施設や周りの関係者が支援してどんどん作れる環境なんです。いらなくなった物を保管してものを作ることを「良し」とする人たちが周りにいてくれるのは大きいなと思います。

緒方:ご本人の意思が尊重されているのが伝わってきます。

吉田楓馬さんの作品

暮らしかた、過ごしかた。アートと日常はつながっている

原田:僕が関心を持つのは作品以上に行為であり、障害特性を含めたご本人の個性、そして日常です。「関係するアート展」に出展いただける施設は、技術指導を行っていないところがほとんどです。指導されてやるのではなく、自らやり始めて形にしていく作家にはやはり面白さがあります。その作る過程を見せながらそれに合った展示方法をやっている感じです。
また、施設の支援員さんたちがどう関わっているかも重視しています。「関係するアート展」で声をかける施設は、アートと福祉を両立させているところばかりです。アートだけに集中して生活支援に力を入れていない、という施設には興味を持てないんです。
僕が共感できるのは、例えば、利用者さんの生活を困難にしている原因探しを粘り強く続けている施設です。何か苦手なものがあるらしい、ではその苦手は何なのか。何年かかってもあきらめずに探し続ける。そういう姿勢で支援している施設だと、面白い作家が生まれます。

緒方:「関係するアート展」の「関係」は、作家への日常的な支援ともつながりがありそうですね。

原田:個人の作家さんの場合は、僕の個人的なネットワークから発掘した人が多いです。その際、「海外でも評価されている人ですよ」という風に紹介されてもあんまりぴんとこないんですよ。「多動だけど自分の好きなことをしている時だけは座っているんですよ」という風にその方の暮らしぶりや人となりを紹介してもらうと興味をひかれます。

緒方:アートという完成品だけを見るのではなく、制作過程に注目するという原田さんの姿勢が表れていますね。

原田:vol.4では、例えばデコトラシリーズの伊藤輝政さんですね。既に他界されているのですが、個人で活動されていた作家さんです。ギャラリートークにご登壇いただいた「アーツカウンシルしずおか」チーフプログラム・ディレクターの櫛野展正さんのご紹介で、ご家族とお会いして作品をお借りしました。伊藤さんはデコトラやトラック運転手へのリスペクトがすごかったそうです。「制作したトラックにも道路を走ってほしかったんじゃないか」と感じて、道路をイメージしたグレーのシートの上に展示しました。情熱を表現するために、台のフレームは赤です。

伊藤輝政さんの作品

vol.3では、沖縄県の与那覇俊(よなは しゅん)さんに個人として出展していただきました。すごくありがたいことに僕はご本人とはもちろん、ご家族とも関係を築くことができて、俊さんをサポートするご様子を見てきました。紙やペンが大量に必要で、しかも大きな作品を自宅で保管しなければならない。大変さはあるはずですが、愛ある理解が俊さんを支えています。

緒方:与那覇さんとは私もいろいろお話しする機会をいただきました。ギャラリートークにも登壇いただきましたし、「関係するアート展」を通じて生まれた「関係」をありがたく感じています。

与那覇俊さんの作品

原田 それまで社会に存在しなかった「関係」をたくさん作ってきたのが「関係するアート展」だと思っています。「関係する」という言葉は、「愛」に置き換えることが可能です。施設においても、家庭においても、その人を愛して支援できるかどうか、そしてその人の人生をその人が望む方向に変えていけるかどうかが重要です。吉田さんが集めるゴミを「やまなみ工房」が保管するのも、やはり愛です。

緒方 今回のvol.4では、長崎県出身の作家・門秀彦(かど ひでひこ)さんとPICFA在籍の篠﨑桜子さんが二人で一つの作品をつくりあげたコラボ作品も展示しました。健常者と障がい者の「愛」あるコラボなので、作品を展示する壁の色はピンクにしています。

門秀彦さんと篠﨑桜子さんのコラボ作品

原田:愛は結局、なくてはならないものです。愛というと暑苦しく受け取られるので、今まで活字にはしなかったんですが、4回開催してきた今、語ってもいいかなと思いました。作家の暮らしぶりとか生活支援とか愛とか、今日語った事柄は、「福祉くささ」を感じさせる内容かもしれません。でも、「関係するアート展」はあくまでアートを楽しむ展覧会です。「障がい者の作品は批判しちゃいけない」などと身構える必要はありませんし、「障がい者のために今日から何かやろう」と意気込む必要もありません。まずは来場してほしいです。来場して鑑賞するだけでも何かを感じとれる内容になっています。来場すること自体が「関係する」ことで、それこそ私たちの願いです。

原田啓之さん、緒方あいさん

関係するアート展 vol.4  〜心が震えるほど面白いと感じたことはありますか〜

  • 日程:2024年7月21日(日)– 9月1日(日)
  • 時間:9時30分~18時
  • *休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
  • 会場:佐賀県立博物館 3号展示室(佐賀県佐賀市城内1-15-23)
  • 料金:¥500
  • *高校生以下、障害者手帳または指定難病医療受給者証の所持者とその介助者1名は無料
  • *2回目以降はチケットの半券持参で無料
  • 主催:佐賀県文化課
  • 企画制作:医療法人晴明会 障害福祉サービス事業所 PICFA
  • お問い合わせ:佐賀県文化課 0952-25-7236