飛石 一成(とびいし・かずなり)
みなさんは、「サヴァン症候群」という言葉を耳にしたことがありますか?これは、知的障害や発達障害を持たれている方が、ごく特定分野に限って優れた能力を発揮することを指す言葉です。今回ご紹介する彼は、そんな能力の持ち主…
彼の得意なことはカレンダー計算。ときに天才的な能力を発揮します。それは、過去未来のランダムな年月日の「曜日」を瞬時に答えるという能力です。計算や理屈を超えたその現象に、周囲の人々はみな驚嘆します。
今回の作品は、そんな彼が描いた手書きのカレンダーです。彼の不思議な能力が醸し出す味わい深い作品をぜひご堪能ください。(文・南里康弘)
昭和55年(1980年)2月16日佐賀県多久市生まれ、佐賀市育ち。
多久市のB型事業所「福祉作業所ありがとう」に所属。
作業所の日常風景として、祝日が近くなってくると、休み時間に飛石さんによる「祝日クイズ」が始まる。
「11月23日は何の日?」「わかんなーい」「勤労感謝の日だよ」といったやり取りが、飛石さんと周りの人のあいだで繰り返し行われる。「日にち」に強い興味があり、1990年代頃から現在までの月/日/曜日までを克明に記憶している。例えば他の人から「○年○月〇日は何曜日ですか?」という質問をされると即座に答えることができ、○○年のカレンダーを書くようお願いすると、1年分のカレンダーをパパパっと書いてしまう。周りとのコミュニケーションの多くが「祝日クイズ」のように「日にち」に関わるものである。
飛石さんが特に大事にしているのは、月単位の長いスパンでの見通しと、規則性を持って生活することである。それは仕事への前向きな態度としても表れる。作業中に私語をしない、金曜の仕事が終わって家に帰ると必ず自分の靴を30分以上もかけて洗う、祝日も仕事がしたいとスタッフに打ち明けるなど、仕事への姿勢の前向きさは並みではない。
休みの日は、自室でラジオを聴いたり、テレビを観ながら過ごす。24時間テレビや相撲や野球中継が大好きで、作業所のカレンダーには時折、相撲・野球の試合日程などが飛石さんの手によって書き込まれるという。今回出展されている作品は、事業所のスタッフから本人に「2021年のカレンダーを書いてほしい」と頼んで作成してもらったもので、純粋に本人の表現行為から生まれたものとは言い難いのかもしれない。しかし、飛石さんがポケットに入れて持ち歩いているという幻のメモ紙には、きっと野球や相撲を始めとしたさまざまな情報がビッシリと書き込まれていて、作者の濃厚な表現世界が広がっているであろうことは想像に難くない。