「まっすぐに自分と向き合う象」

加茂 賢一(かも・けんいち)

万華鏡を覗いたときのあの感じ。彼の描くカメレオンの1枚1枚塗られた繊細な鱗の鮮やかさ。彼の“ 色” は正直だ。彼の作品は動物をモチーフとしたものが多く、特にゾウは、幼い頃に連れて行ってもらった動物園にいたのをよく覚えているのだという。「僧侶」もまた、彼の特徴的なモチーフのひとつ。家で見つけたという異国で撮られた戦時中の写真に白黒に写る僧侶たちを、彼自身の色で彩る。彼の誠実さを表すように、色鮮やかな原色をまっすぐにのせる。彼にとっての作品づくりは新たな発見である。今日もまた新しい「発見」に出会うため、彼は思いを繊細に表現し続ける。(文・川内七海)


1976年生まれ 佐賀県唐津市在住

しとしとと小雨がちらつくある日、加茂さんのもとを訪れた。卓上には描きかけのカメレオンが4匹。ビビッドな原色の油性ペンが並ぶ。彼は赤、青、緑のペンを手に取って黙々と、丁寧に色をのせる。鮮やかに彩られるカメレオンの鱗ひとつの枠の大きさは僅か2mmほど。作品を見つめる彼の優しい眼差しには、いったいどれほど色彩豊かな世界が写っているのでしょう。

画用紙いっぱいに描かれた「カメレオン」、「ワオキツネザル」に「ブッシュベイビー」、「ミーアキャット」や「チンパンジー」、それから「ゾウ」。彼の作品は動物をモチーフとしたものが多い。特にゾウは、幼い頃に連れて行ってもらった動物園にいたのをよく覚えているのだという。そのせいか、彼が生み出す「ゾウ」はどこか懐かしさを覚えるような特別感が感じられるのです。

また彼は、あるときは植物を描く。鮮やかなピンク色が目をひく「シクラメン」。画面の端まで力強く枝を伸ばす「松」の木。自分の居る唐津の町には松の木が虹のように美しく並ぶ風景が広がっているのだと、彼は優しく微笑む。目の前で色づくカメレオンたちが掴まっているのも松の木。同じ鱗の模様が目に留まる。

そしてもうひとつ、「僧侶」もまた、彼の特徴的なモチーフのひとつ。家で見つけたという異国で撮られた戦時中の写真に思いを馳せて、そこに白黒に写る僧侶たちを彼自身の色で彩る。それがまたなんとも異国情緒漂うドラマチックさ。私たちには決して見えない世界を、加茂さんは作品を通して見せてくれるのです。

このような彼の作品たちは、3つの表現方法で様々な表情を見せる。彼の描くカメレオンによく見られる鱗のような独特の描法。動物たちの毛並みに表現される線描。そして松の木の表面に現れる点描。そして、それらは私たちにいつも新鮮さを感じさせる。彼にとって絵を描くことは「発見」であり、次に生かすことでまた新しさが生まれるのです。

最近は油絵の世界にも足を踏み込んでいるという加茂さん。また私たちは近いうちに素敵なものに出会ってしまうのでしょう。彼と、彼の愛に溢れる作品たちに巡り合う皆様が、これからも優しい気持ちでいられますように。(文・川内七海)