タイトルなし

椿原 涼太(つばきはら・りょうた)

はじめまして。22 歳・男・身長170・87㎏。知的障害と言語障害を伴う自閉症です。心の年齢は2 歳程度。経験した事は覚えていますが、2 歳の心では処理できない事が多く、人が多い場所、にぎやかな場所にいる事は難しいです。けれど。自分のことを話されていると分かるようで嬉しそうにします。涼太が紙や物を使って作る作品は、母には宝物です。本人は惜しげもなく丸めてしまいますが。母は毎回アイロン掛けしています(笑)。不思議な作り方で、同じものを型なしでたくさん作ります。母1 人で楽しんでいるので、この機会にたくさんの人に“ ふふっ” っと楽しんでもらえたら嬉しいです。(文・椿原京子)


1998年生まれ 佐賀県唐津市

“きまぐれ”な彼。今月のカレンダーには、「機嫌を悪くしなかった日」のシールが3つ。

さっきまで画面越しに元気に動き回っていたはずの彼は、突然部屋の真ん中に座り込んで、いつものように黙々となにかを生み出しはじめました。

ハサミを器用に使って、色紙を細かく形取る。その大きな手から生まれる繊細なパーツを、彼は丁寧に貼り付け合わせ、出来上がりを何度も見つめては調子を整える。ひとつ、またひとつと、色は違えど同じ形がずらりと並ぶ。あろうことか、それらはみんな形どられることなく全てがぴったり同じ大きさ、形。思わずぎょっとしてしまった。そんな彼、何をつくっているかと思えば、無数のダイヤル式の南京錠。「鍵」です。最近お留守番に挑戦している彼ですが、一人ぼっちの寂しさが怒りに変わってしまって、つい物を壊してしまうとのこと。大切なものを置いておく部屋に、母である京子さんがひっそりとつけた「鍵」。それとそっくりのものをせっせとつくり続ける姿は、彼なりの小さな抵抗のようにも感じられます。

彼はきっとお母さんのことが大好きなのでしょう、そしてまた京子さんも同様に、「りょうちゃん」のことを愛しています。短い時間の中で私が彼らに印象づけられたのは紛れもなく“親子愛”。京子さんは、彼が機嫌を損ねて丸めてしまった作品を拾っては、アイロンがけして大事にとっておくのだそう。それらをなんとも嬉しそうに、誇らしげにひとつずつ紹介してくれる様子は愛に満ちた母親そのもの。彼らはきっと、私たちが気づかないような当たり前の世界にある小さな幸せを見つけてはそれらを噛み締めて生きている。

彼がはじめて何かをつくったのは8、9年前でしょうか。丁寧にラミネートされた可愛らしい工作が出てきました。大切にしまわれた作品たちが次々に出てくるんです。そうそう、きれいな丸を描くのにCDやDVDを使っちゃうんだそうですよ。カラフルなカバンの工作は、いっぱいあるのに全部全部同じかたち!下書きすることなく何度も同じものを作れることに毎度驚かされながら、尽きることのない微笑ましいエピソードに耳を傾けながら、私は幸せをお裾分けしていただきました。

別れ際、彼は、またね、と悪戯そうに笑って見せた。緩やかな曲線を生きる彼がいつまでも笑顔でいられることを願っています。(文・川内七海)